丸まった針の先に視線を向ける

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丸まった針の先に視線を向ける

藝大在学中に生み落とした文章や想い達 かわいいかわいい我が子

紀行文 旅 巡らす思い

紀行文を書きました。

 

どこに向かうにも移動の時間があって、巡らす思いがあります。

少しだけ旅に出たくなることを願ってます。

 

 

巡らす思い

 

茶色い髪の女性が隣に腰を下ろした。自分より少し年上に見える彼女は、慣れた手付きで鞄を前の座席の下に押し込む。ポケットから取り出したイヤホンをすっと解くと、配られていたブランケットを膝に掛ける。濃いめに書かれた眉毛と大粒のラメのアイシャドウが印象的だ。

 

気を取られていると、髪を綺麗に留め、そろいのジャケットを着た背の高い女性が三人現れた。前方から頭上の棚を閉めて回る。タイミングを同じくして、アナウンスが入る。意識を向けているのに、何を言っているのかほとんど理解することが出来ない。シートベルトを見えるように締め、携帯だけを握りしめた。

 

窓に映る自分。中学の修学旅行が鮮明に思い出された。沖縄に向かう途中、窓から見えた景色に、懸命にインスタントカメラを向けた。カメラについての知識のかけらもなかった私は、どこでもフラッシュを光らせた。反射した光は、中と外の世界を遮断された。現像され帰ってきた写真には、窓に写った頭の悪そうな、尚且つとても楽しそうな自分の顔が写っていた。今でも少し、浮き足立つ自分がいる。

 

 

轟音と共に内臓が浮いてから、まだ映画を一本も見終わらない時間に食事が運ばれてきた。腕時計は一時半を指している。窓の外は真っ暗で、星のひとつも見つからない。これから食べるものがどの食事に属するのか分からないが、胃袋は微塵も気にしていなかった。懸命に聞き取った選択肢からビーフと答え、急いでテーブルを出す。本当はコーラを飲みたかったのに、頭に浮かんだコークとコーラ、どちらを言うべきか分からず言う。オレンジジュース。隣の彼女の慣れた振る舞いが、私を慎重に行動させた。

 

以前食べた食事があまりにも不味く、微塵も期待していなかったが、見事に裏切ってくれた。封を開けるとかすかに肉とペッパーの香りがする。ゴルフボールのようなハンバーグが二つ並んでいる。下敷きになった米がジャポニカ米だと気づくと、フォークの包みを開ける手が急いだ。食べ終えるまではほんの一瞬だった。私は、米に目がなく、日本人の米離れなんて都市伝説のような気がしている。

 

メインの他に小さなパンと、バターやジャムを受け取っていた。中に、品名の表示がない包みが一つだけあった。食べ終え、息を吐いた後だったが、細長いそれが気になる。角から二つ目の小さい山に狙いを定め、封を切る。ゆっくりと口元に運び、中からさらりと出る液体を舐める。味がしないので、改めてぐっと吸うが、それが何なのか分かる要素を得られない。謎が解けず、空になっている皿に流し出すと、つやつやとした黄色い液体。ああ、私はオリーブオイルを吸っていた変な奴だ。一瞬にして悟る。平静を装いつつ全神経を注ぎ、周りの視線を確認する。大丈夫、だろう。彼女は枕に頭を預けていた。

 

 

状況と気持ちをリセットすべく、絡まったイヤホンを伸ばし、途中で止めていた映画の続きを見ることにした。見始めが物語の終盤も終盤で、劇世界に戻る暇なくエンドロールが流れてしまった。少し腕を伸ばして画面に触れ、次に見る映画を探すが、気になるものも見つからない。仕方なく、話題になっていたディズニーの映画を選択する。吹き替えも字幕も、日本語がないじゃないか。子供も見るようなアニメーションだからきっと難しい英語ではないだろうと予想する。リスニングよりリーディングが得意だった私は、英語の字幕を選び、右向きの三角を押した。難しい言い回しはないのに、次々にセリフが逃げていく。色鮮やかな景色に意識を向けられない。集中は、物語の「起」は越したが、「承」まで持たなかった。綺麗な丸に収まった、三角屋根の家を押す。画面の明るさが増し、映画、音楽、という項目とともに地図が表示されている。日本が右端にある見慣れない地図だ。円グラフになった到着地までの時間は、1ピースだけ食べられたピザに似ている。

 

もう少しだ。到着に備え少し寝よう、と思うが、目が冴えている。膝にかかっていたブランケットを肩までぐっと上げ、座席と壁の隙間に落ちていた枕を、首元に持って行き微調整をする。しばらく、適当な音楽を聴いていたが手持ち無沙汰になる。インターネットの使えない環境にいることは、かなり久しぶりだった。自分の携帯を手にいれる前、私は何に時間を使っていたんだろうか、と考えてみたりする。ふと、思い出し、乱雑に詰め込まれた鞄を引っ張り出す。最寄駅の本屋で手に入れたガイドブックが入っている。すでに目を通していたが、一ページ目から開いてみた。これから向かう場所へ、想いを馳せる時間が、意図せず設けられた。

 

 

気がつけば、窓の外が白かった。首を回しながら、足下に落ちていた本を拾う。カラフルな見栄えの表紙がグシャっとしていた。見慣れない街並みが雲の隙間から顔をし、お出迎えをしてくれている。朝ご飯を食べ損ねたことは、全く気にならない。搭乗前に買っていたミネラルウォーターを、ほんの少し口に含み、喉に流す。目が覚めてしばらく経っても、コンタクトがごろついている。ポーチから小さな丸い鏡を出し、確認する。すっかり落ちた口紅をさしなおす。いつ見ても乱れていない彼女に、思わず尊敬の念を抱いた。

 

シートベルトのランプが点きしばらく、再び轟音がなる。荷物を取る混雑が終わるのを、座って待つ。半日ぶりに席を立つと、意外と疲れているのを感じた。のろのろと進む列に続く。スコティッシュのくぐもった英語のアナウンスに導かれ、コンベアーから荷物を受け取る。外に出ると、やけに冷たい風が、疲れを連れて行った。

馳せた思いを雲の上に浮かせたまま、私は目的地に着いた。

 

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お読みいただきありがとうございました。

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